2.乳と卵 川上未映子

2008年芥川賞受賞作。これ初めて読んだ時はあんま面白さわからなかったけど、今読んだらめちゃくちゃ面白い。関西弁のテンポの良さと女の性の苦しみと家族の関係みたいなのが上手く融合してる。

 

あらすじ

東京で一人で暮らす主人公の元に姉が娘を連れて関西から旅行に来る。この旅行の本当の目的は姉が東京で豊胸手術をするためだった。姉と娘の母子関係は悪く、娘は半年も口をきかず筆談をしている。そして娘は誰にも見せていない日記をつけているのだ。

 

娘の緑子の書く日記がとても良い。子ども特有のみずみずしい感性と思い込みの激しさ。例えばこんなやつだ。

 

○最近はものを見てると頭がいたい、最近はずっと頭がいたい。目から色んなものが、入ってくるのか。目から入ってきたもんは、どっから出て行くのでしょうか。どうやって出るのか言葉になってか涙になって、でももしか、泣いたりもしゃべったりもできん人やったらば、そうやって目にたまったもん出していけん人やったらば、目からつながってるとこ全部ふくらんで、いっぱいになって、息すんのもしんどくなって、それからどんどんふくらんで、目はもうきっとあかなくなってしまうでしょう 緑子

 

なかなかこの感覚を大人になっても書ける人いなくてすごいと思った。緑子は今親の前でしゃべらなくて、当然泣いてもいない。だから目から入ってきたものが出て行かなくて頭が痛くていつかは目があかなくなるって思う。どんどん苦しくなって何もわからなくなるって言うのを表現してるんだと思う。

人が言葉にしたいけどうまく言葉にできない事を表現するのが作家なんだろうな。すごいな。

 

これ通勤の電車の中で読んだけど、姉の自分の胸への描写(乳首の色がアメリッカンチェリーみたいにうっ血してて、大きさがペットボトルのふたくらいあって、子ども産んだ時医者に赤ちゃんの口に入るかなって心配された)が面白かったと同時に自分の乳首どんなやったかなって思わず電車の中で見ようとしてハッとしてその衝動を抑えた。

結局この姉が豊胸手術受けようとしてたかわからなかったけど、何か人生の転換がほしかったのかなと思った。今のこの苦しさが変わるきっかけがほしかったんだと思う。